第二話

結局放課後まで書けなかった。生徒も大分帰宅し閑散とした教室は、微かに明るい夕陽を受けている。一人でうんうん言いながらシャーペンを握っていても、真っ白な紙はなかなか埋まらない。

「あーもーフリーターとかで良いだろ」
「よくないですよ」
「うおっ!」

誰もいなかった教室から突然応えがありびくっとした。
直江か。いつのまに来たんだこいつ。

「もう出してないの仰木さんだけですからね」
「う…すんません」

前の席をカタンと引き、直江が横を向いて座る。

「まぁまだ二年ですから、焦らずじっくり考えればいいんです」

パラパラと他の奴の調査書をめくりながら直江は言った。
初めてまともに喋るのが誰もいない放課後、っていうのに心持ち緊張する。いや別にビビってるとかじゃなく。

「…じゃあ書かなくてもいい?」

直江が長い足を組み換える。

「駄目です。まだ考えがまとまってなくても、書けるとこまで頑張ってみて」

優しい声で言われると反発する気も失せ、とりあえず何か適当に書くことにした。

「仰木さんは趣味とか特技、何かないんですか?」
「んー特に職業に役立つようなのはねーな」

って、普通に俺がタメ口で先生の方の直江が敬語っておかしいな。まぁ気にしてない風だし大丈夫か。

「でも料理は得意だぜ。毎日弁当も作ってるし」
「へぇ!凄いですね」
「別に凄くねぇよ。色んな飯屋でバイトしてたから、俺料理すんの好きなんだ」

なんか色々喋っちまうのは多分、こいつが優しい目で耳を傾けてくるからだと思う。
不思議と何でも話したくなる空気が直江にはあった。

「なお…あ、いや、先生も」
「直江でいいですよ」
「…直江もひとり暮らし?」
「ええ。料理はできないので外食か弁当ばっかですね」

そう言って直江は相変わらず爽やかに笑ってる。
なるほど、いい男は例え欠点があってもそれはマイナス面にはならないんだな。

サラサラと紙を滑るペンの音と、穏やかな声だけがする教室。

「じゃあ今日俺が作りに行ってやろうか」

自分でも何言ってんだと思った。
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